最近、チャンネル登録者数100万人超のYouTuberが建てた注文住宅のビルトインガレージに車が入らない問題がTwitterで俄かに騒がれています。
ビルトインガレージは私の得意分野ですし、私が常々ブログ内で言っている内容にもリンクするので記事にします。
問題のおさらい
施主であるYouTuberが中堅ハウスメーカーで注文住宅を建てましたが、引渡し直前になってビルトインガレージに車が入れられないことが分かったそうです。
FL(ビルトインガレージの床)がGL(地盤面の高さ)から330mmの高さにあり、接面道路からの距離も近いため長いスロープが設けられず車の底を擦ってしまうそうです。
分かりやすいように絵にすると、
擦るどころか登れもしませんでした。
ちなみにバックもダメ。
この道最強のジムニーなら登れそうです。
けど、やっぱり駄目でした。
絵ではギリギリ擦る程度ですけど、実際は低い側のサスペンションが沈むんでガチ当たりすると思います。
問題の要因
施主が渡された図面はFLからの高さで書いてあって、GLからは無かったので分からなかったみたいです。
たぶんハウスメーカーが平面図しか渡していないやつです。
加えて、現場確認した際に浸水対策として130mm上げて、もともとGL+200mmだったのをGL+330mmに上げたようです。
まぁ一般的な車がスロープ無しで乗り上げられる高さは100mm程度までなので、GL+200mmの時点で設計がおかしいですね。
そもそもFLは屋内の床の高さなんで、屋外扱いのビルトインガレージには無関係のはず。
掘り下げていくと設計がおかしいのには理由がありました。
問題の真因
なんとこのビルトインガレージは図面上は屋内の倉庫なんです。
実際は作業部屋だけど、倉庫の扱いで車も入れれるようにして欲しいというのが施主の要望だったのです。
作業部屋なんで床の勾配もNGとのこと。
屋内であれば逆にGL+200mmは危険なレベルで低いです。
この方の家は木造の在来工法なのでGL+200mmって基礎高50mmぐらいですから、強めに雨が降ったら土台がビチャビチャ。
だからGL+330mmに上げたんだろうけど、それでもかなり低いです。
ちなみにフラット35は基礎高400mm以上必須なのでGL+550mmぐらいになります。
どうやら屋内の倉庫としてはかなり低いFLと車庫としてはかなり高いFLという矛盾によって、破綻していた計画だったようです。
普通のビルトインガレージ
当然屋外にあります。
ガレージの床は基礎の立ち上がりの下で、3~5度の勾配を設けて排水性を持たせるのが普通。
絵を見てもらったら分かる通り、ガレージの床とFLは高さに差があるのが普通で、一緒にするのは無理がありますね。
ちなみにGL+330mmの床に車を入れようと思うと、最低でも8度程度の勾配、つまり長さ2.5mのスロープが必要になると思います。
こう書くとかなり無茶な計画だってのが分かると思います。
気付けないの?
施主は素人なんで難しいと思います。
ハウスメーカーは平面図しか渡さないことが多いですし、ハウスメーカーの建築士が気付いて欲しかったですね。
確認申請には断面図が必要なので、ハウスメーカー側は気付けると思うんですよね。
ただ、今回の施主はマイホームデザイナーで3Dモデルを作って検討していて、実はこの問題が自分で作った3Dモデル上に露見しています。
勘の良い人やモノづくりに精通している人、車に詳しい人なら気付けたかと思います。
特に段差に恐ろしく弱いスーパーカーの所有者ならすぐに気付けたでしょうね。
そもそも建築士に車を入れることが伝わっていたのかが疑問です。
ハウスメーカーとの家づくりは営業マンと打合せをして、それを営業マンが建築士に伝えるという伝言ゲームなので、施主の意思が全て図面に反映されると思ったら大間違いです。
営業マンは家を売るプロであって、建築物のプロではないので実質素人で、素人の施主と素人の営業マンが話した結果を建築士に伝えて図面を描いてるんです。
長年こんなやり方が通用しているのが不思議で仕方ないです。
私はこれが原因でハウスメーカーと口論になって、建築士事務所に依頼することになったんですけどね。
そもそも違法なんじゃ?
Twitterでも意見があったのですが、車庫には内装制限があります。
なので普通の内装の部屋に駐車することはできません。
ただ、リフォームで内装を不燃材にすれば、法的に問題はありません。
個人宅の場合、多少グレー気味であっても理屈が通れば検査官はOKを出しますので大した問題にはならないです。
まぁ影響力のある人が大っぴらに脱法行為を宣言するのはよろしくないとは思いますけどね。
ぶっちゃけ作業部屋なら法的には居室なんで、採光面積(窓)も全然足りなさそうです。
誰の責任になるの?
施主は何度も自動車が入れるかを確認しているそうなので、ハウスメーカーに道義的責任はあるでしょう。
ただ、賠償となると難しいと思います。
なぜなら、図面通りの家が建っているから。
施主は間違いなく図面通りの家を建てることを承諾していて、契約書という形で署名、捺印しているはずです。
じゃないと着工してるわけないので。
この図面がビルトインガレージと書いてあったり、車の絵が描かれていれば状況は多少違ったかもしれませんが倉庫ですからね。
倉庫が図面通りの倉庫として建てられている。
これでは問題にしようがないと思います。
道義的責任部分に焦点を当てて訴訟を起こすことはもちろん可能ですが、時間と労力、弁護士費用を考えると元が取れるような結果にはならないでしょう。
個人的には今回のハウスメーカーは施主に歩み寄ってくれている良心的なハウスメーカーだと思いますけどね。
大手ハウスメーカーだと、この手のグレー気味の家は検討すらしてくれないですから。
どうすれば防げたの?
しっかりと話し合い、お互い納得して進めるべきでした。
車が入るかを何度も確認していることから、施主が不信感を抱いていたことが伺えます。
ハウスメーカー側は車の図面を用いて、GL+何mmまでなら大丈夫だということを示すべきだったし、施主はそれを要求すべきでした。
まぁ中学レベルの数学すら怪しい営業マンの検討結果なんて信用するに値しないので、私なら間違いなく自分でやっていましたね。
そもそもですが、建築事務所に依頼すべきだったと思います。
正直ハウスメーカー相手に無茶を言うのは無謀です。
できるできると言って、できないor失敗するはハウスメーカーあるあるです。
ハウスメーカーは決して自由設計ではなく、カタログショッピングのようなものです。
普通の家を建てるのは問題ありませんが、今回の様な変わった家、こだわりを持った家の場合、営業マンのような素人相手に話しをしても失敗するだけです。
建築基準法に精通し、経験と実績のある建築士に依頼するのが最善だったと思います。
逆にこの手の家は建築士の得意分野です。
例えこの形で実現できなくても、きっと納得できる代替案を出してくれたと思います。
一見高く見える設計費には理由があります。
一流の設計者が描いた図面を三流メーカーが作っても粗悪品にしかなりませんが、へっぽこ設計者が描いた図面は一流メーカーで作ってもゴミにしかなりません。
どこにお金をかけるべきか、しっかりと考えて依頼先を検討すべきです。
直せるの?
正直どうしようもないと思います。
私としてはビルトインガレージを諦めて、ガレージシャッターを壁で塞いで普通の部屋にしてしまうのが良いと思います。
運の良いことに、この家は外に車を2台駐められます。
施主は別に車趣味があるわけでもないですし、どうしてもガレージが必要なら別の場所を借りれば良いだけの話です。
と言うのも、この家の構造は別の問題を孕んでいるからです。
次回はその話を書きます。
ここまで読んで頂きありがとうございます。